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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)10289号 判決 1977年10月20日

原告 株式会社ユシマゴルフサービス

右代表者代表取締役 岸野友市

右訴訟代理人弁護士 山本剛嗣

被告 野口安治

右訴訟代理人弁護士 黒柳和也

同 花本昭

主文

一  被告は原告に対し、原告が大秦野カントリークラブの個人正会員権(入会金預り証書番号第〇三五A号)を有することを確認する。

二  被告は原告に対し、右個人正会員権の名義変更承認願手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五〇年二月六日ごろ、訴外株式会社上野ゴルフ商会(以下「上野商会」という。)より沼津国際カントリークラブのゴルフ会員権を代金二五〇万円で買受ける旨約し、そのころ、右代金の支払にかえて被告所有名義の大秦野カントリークラブ(訴外東海株式会社経営)のゴルフ会員権(正会員権、入会金預り証書番号第〇三五A号、以下「本件会員権」という。)を他の二口のゴルフ会員権とともに譲渡した。

2  被告は右譲渡に際し、上野商会に対し、裏面の裏書欄に被告の譲渡印を押捺した被告名義の入会金預り証、同名義の個人正会員証、名義変更承認手続委任状(受任者白地)、名義変更について責任を負う旨の念書、被告の印鑑証明書を交付した。

3  原告は昭和五〇年二月一〇日、上野商会より本件会員権を代金九六万円で譲受け、その際右各書類の交付を受けた。

4  被告は原告が本件会員権を有することを争う。

5  よって、原告は被告に対し、原告が本件会員権を有することの確認及び本件会員権の名義変更承認願手続をすることを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原告主張の入会金預り証、被告の印鑑証明書を交付したことは認める、その余は否認する。

3  同3の事実は不知

4  同4の事実は認める。

三  抗弁

1  被告の上野商会に対する本件会員権譲渡の意思表示は、次のとおり、その重要な部分に錯誤があり無効である。

上野商会代表取締役訴外五月女寿夫(以下「五月女」という。)は、昭和四九年一二月ころ、被告に対し、沼津国際カントリークラブの正会員権が金二五〇万円で買えるが、その代金は当時被告が有していた本件会員権を含む三口のゴルフ会員権を譲渡するだけでよく、他に金銭の支払義務はない旨説明した。そこで被告は五月女の右説明を信じ、右カントリークラブの正会員権購入代金の支払に代えて、右三口のゴルフ会員権を上野商会に譲渡したものである。

ところが、後日右カントリークラブの正会員権は金三、五〇〇、〇〇〇円であって、さらに金一、〇〇〇、〇〇〇円の差額を支払わなければ右正会員権を取得することができないことが判明した。

しかし、被告は当時有していた前記三口のゴルフ会員権の他に金一、〇〇〇、〇〇〇円もの差額を支払ってまで、右カントリークラブの正会員権を取得する意思は最初からなかったのであり、被告が当時右事実を知悉していたならば、被告は五月女に対し右会員権を買受ける旨約すことも同会員権購入代金名下に、本件会員権を含む三口のゴルフ会員権譲渡の意思表示もしなかった。

2  仮に右主張が認められないとしても、

五月女は被告に対し、沼津国際カントリークラブの会員権が、真実は金三五〇万円でなくては購入できないにもかかわらず、金二五〇万円で購入できる旨虚偽の事実を告げて被告を欺罔し、その旨被告を誤信させて、右カントリークラブの会員権購入代金名下に、本件会員権を含むゴルフ会員権三口を上野商会に譲渡する旨の意思表示をなさしめたものである。

よって、被告は、昭和五一年一〇月一二日ころ、上野商会に対し口頭で本件会員権譲渡の意思表示を取消す旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

2  抗弁2の事実は不知。

五  再抗弁

1  仮に被告の上野商会に対する本件会員権譲渡の意思表示の重要な部分に錯誤があるとしても、沼津国際カントリークラブの正会員権購入代金額は被告が事前に調査すれば容易に明らかにしえたにもかかわらず、その調査を怠った結果右錯誤を生じたものであって、被告にはこの点につき重大な過失がある。

2  仮に被告主張の詐欺の事実があったとしても、原告はそれについては善意である。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実はいずれも否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因について

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2  同2の事実中、被告が本件会員権を上野商会に譲渡の際、裏面の裏書欄に被告の譲渡印を押捺した被告名義の入会金預り証、被告の印鑑証明証を交付したことは当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、被告は本件会員権を上野商会に譲渡した際、右の書類に加えて、被告名義の個人正会員証及び、右商会の代表取締役五月女の求めに応じ、同人において被告の代理人として譲渡の手続を行うために必要な委任状ということで、収入印紙の貼布してある白紙に被告の実印を押捺した書類一通を交付したこと、甲第二号証の委任状は右交付にかかる書類の白地部分に、被告以外の者が被告の氏名委任事項(名義書替)等を記載したこと(なお、被告は同号証の成立を否認するが、右認定の趣旨で交付した以上、会員権の名義変更のための委任状として使用されることを了解していたものと認められる)が認められ、右認定に反する証拠はない。

3  《証拠省略》によれば、原告は上野商会より本件ゴルフ会員権を代金九六万円で譲受け、譲受けの際、同商会より、被告が同商会に交付した前記入会金預り証、個人正会員証、印鑑証明書、前記白地部分を補充した委任状(甲第二号証)の交付を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

4  請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  錯誤について

被告は沼津国際カントリークラブ会員権が真実は三五〇万円であるのに、これを二五〇万円で購入できると誤信して本件会員権を上野商会に譲渡したので、譲渡の意思表示は錯誤により無効である旨主張するが、前認定のとおり被告と上野商会の間では右カントリークラブの会員権について代金二五〇万円で売買契約が成立しており、現実の右カントリークラブの会員権の価格如何にかかわらず、右契約は有効であり、被告主張の意味での錯誤が生ずる余地はないというべきである。

2  詐欺について

被告は、右カントリークラブ会員権の価格が真実は三五〇万円であるのに二五〇万円で購入できると被告を偽罔して上野商会に対し本件会員権を譲渡させたから、本件譲渡の意思表示は詐欺に基づくものである旨主張するが、錯誤の主張について判断したとおり、現実の価格如何にかかわらず、右カントリークラブ会員権について代金二五〇万円で売買契約が成立しているのであるから、被告主張の意味では同様詐欺の生ずる余地はない。また、本件全証拠によるも他に詐欺の事実を認めることはできない。

従って、被告の抗弁はすべて理由がなく、その余の判断をするまでもなく原告は有効に本件会員権を取得したものというべきである。

三  ところで《証拠省略》によれば、本件会員権はいわゆる預託会員組織のゴルフ会員権であり、一定の金額をゴルフ場の経営会社に預託して会員資格を取得し、入会金預り証、会員証の交付を受け、必要に応じゴルフ場の施設を利用できること、右入会金については七年間据置の後返還請求でき、預り証と引換えに支払がなされること、理事会の承認を得て会員権を譲渡することができ、会員権の名義を変えるには譲渡人の印鑑証明書が必要であること、原告が本件会員権を譲受けた当時、名義変更の手続が停止されていたため右手続がとれないでいたところ、先に交付されていた印鑑証明書の期限が徒過してしまったこと、その後右停止が解かれ、右手続が可能となったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

また、預託会員組織のゴルフ会員権については、会員は、施設利用については優先権があり、かつ、会費等の支払義務を負うのが通例であるから、特段の事情の認められぬ本件ゴルフ会員権についても、会員は右の如き権利義務を有するものと推認される。

以上の認定事実によれば、本件ゴルフ会員権は、会員のゴルフ場経営会社に対する入会金返還請求権、優先的施設利用権、会費支払義務等を包括した契約上の地位であり、右地位の譲渡には理事会の承認が必要とされるから、本件ゴルフ会員権の譲渡人としては右承認を得るための手続に協力する義務があるというべきである。

しかして、前記一2の認定のとおり、被告は本件会員権の譲渡に際し、裏面の裏書欄に被告の譲渡印を押捺した被告名義の入会金預り証、同名義の個人正会員証、被告の印鑑証明書、委任状として使用されることを予定した被告の実印の押捺された白紙の書類一通を交付しているのであるから、将来正当に右書類を取得する原告を含むすべての者に対して名義変更承認願の手続をすることを予め承諾していたものというべきであり、被告は原告に対し、本件会員権につき名義変更承認願手続をなすべき義務がある。

四  結論

以上のしだいであり、原告の本訴請求はいずれも理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小田泰機)

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